四水転空
キト伝説2011




今年も雪国高鷲ではたーんと雪が降り雪解け水で潤っておった。農作物にも家畜にも、それはそれは惜しみなく水が与えられた。ところが、いつもはちょっとづつ井戸から汲んで大切に使っていた水じゃったが、次第にだだくさーに、ありゃーあるったけ贅沢に使うようになってしまった。このお話はそんな水に纏わる出来事で始まったんじゃ。 

「おばぁ、おばぁ、ちょっと来てくれ!」
「なんや騒々しいのう三吉、どうしたんじゃい。忙しいから後に・・・」
朝からお勝手裏で大声で騒ぎ立てる孫の指差す方をおばぁは見るなり言葉を失った。昨日までは澄み切っていた井戸の水がどんよりと茶色く濁っているではないか。それは三吉の家だけでなく村全体に広がっておった。山で何か起こっているに違いない、いや、これは水の神様の祟りだとみんな口々に噂しておった。 

するとどこからか歌のような何とも奇妙な声が聞こえてくるではないか。「ウルーウルー」「大変だー!井戸の水が、水がなくなってゆくー!」 

その夜、おばぁは三吉に、古くから高鷲に伝わる教えを説くことにした。
「三吉や、よーくお聞き。あれは「水おどし」の仕業じゃ。」
「水おどし・・・って、まさか」おばぁはうなづいた。

「高鷲には「四水転空」という教えがあるのじゃ。四水とは雨川池そして海のこと、それらの水すべては空へ帰るという意味なのじゃ。空へ帰った水は、巡り巡ってまた降りてくる。分かるかい?」
「うん、川や海の水が、また雪や雨になるってことだろ?」
「そうじゃ。その四水転空の流れを邪魔するのが「水おどし」だ。「水おどし」は、人間が汚した水を飲んで死んだ動物たちの化身なのじゃ。水を必要以上に使いすぎたり汚したりすると分水嶺に居座って水をぜーんぶせき止めてしまうのじゃ。」
「んじゃ、どうやって退治するんだ?」

「水おどしは人間をちょびっと驚かしたいだけや。皆が水を大切に使っておれば、自然とおらんくなるそうな。」
三吉少年はおばぁをじっと見つめたまま静かに頷いた。 




二へと続く